函館地方裁判所 昭和45年(ワ)141号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一、本件事故の発生
(一) <証拠>によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。
原告は、昭和四四年八月二日午後六時ころ、原告ほか三名の大人の乗車する原告車を運転して函館市本町五稜廓電停方向から北進して同市五稜廓町五番二号先交差点に至り、同交差点を白鳥橋方向へ左折進行した。右交差点を白鳥橋方向へ左折したばかりのところに本件マンホールが放置されていたが、当時本件マンホールの鋼鉄製路面蓋(直径八二センチメートル)が約四センチメートル地表から突出しており、その東側(原告車の進行方向からみて手前)の道路に直径約1.4メートルの円状の凹みがあり、この凹みの最深部と本件マンホールの最高部との高低差が約一〇センチメートルであつた。原告は右交差点を左折した直後、本件マンホールを発見して衝突の危険を感じ急ブレーキをかけたところ、前記の道路の凹みおよび急ブレーキの反動で原告車の車体が沈みこみ、原告車の左前車輪付近のロアーサスペンションアームの前方ナット付近を本件マンホールの鋼鉄製路面蓋の金枠に激突させた。原告は、その衝撃により口唇部挫創および歯牙破折の傷害を受けた。
(二) 被告は、原告が主張する原告車の衝突部位の地上高と本件マンホール付近の路面状況からみて本件事故は物理的に発生不可能であり、また、本件マンホールには自動車との衝突痕がまつたくないことからみて本件事故は発生していないと主張する。
なるほど、本件マンホールの地面よりの高さおよびその付近の道路の凸凹の状況は前記認定のとおりであること、鑑定人坂本進の鑑定の結果により認められる原告車に大人四人が乗つた場合の左前輪付近のロアーサスペンションアームの前方ナット付近の地上からの高さが約二一センチメートルであつたことからみれば、仮に本件マンホール手前の凹みの最深部に原告車の前輪が落ちたとき原告車の前記ロアーサスペンションアームが丁度本件マンホールに達したものと仮定しても、原告車に格別の上下運動がない限り右ロアーサスペンションアームが本件マンホールに衝突することはなかつたものといえるであろう。しかし、証人加藤道夫および鑑定証人坂本進の各証言ならびに鑑定人坂本進の鑑定結果によれば、原告車のロアーサスペンションアームは路面を進行する際、路面の通常の凹凸によつても若干上下するから相当の深さの凹みに前輪が落ちたときには当然相当程度沈み込むのみならず、凹凸が殆んどない路面であつても急ブレーキをかけると相当沈み込むこと、その沈み込みの程度は原告車の車種および整備状況、凹みの深さ、原告車の本件事故の瞬間の速度、ブレーキのかけ方等により相当の差異があることが認められる。ところで、本件マンホール付近の凹みの状態は前記のとおりであり、証人大原二郎の証言によれば、原告車は整備して数か月を経た中古車であつたことが認められ、さらに、原告本人尋問の結果によれば、本件事故の際原告は、右凹みを認識し、凹みに落ちると同時に急ブレーキをかけたことが認められる。
このような事情に照せば、原告車が本件マンホールに衝突した可能性は十分あるものといわなければならない。また、本件マンホールに車との接触痕が存在したことを認めるに足りる証拠は存在しないけれども、成立に争いのない乙第二号証の一、二により認められる本件マンホールが鋼鉄製であることからみて、接触痕跡がないからといつて接触しなかつたものと断じることはできない。さらに前記甲第二号証によれば、原告が昭和四四年八月二日に共愛会病院において口唇部挫創および歯牙破折の傷害で治療を受けたことは疑いのない事実であると認められ、原告が本件事故以外の原因によりこの傷害を受けたことを疑うべき証拠はない。以上のような事実を総合してみれば、被告の前記主張は採用できないものといわなければならない。
二 被告の責任
(一) 本件道路が被告の管理する市道であることおよび本件マンホールが被告の設置管理するものであることは当事者間に争いがない。
(二) そこで、本件道路の管理に瑕疵があつたか否かについて検討する。本件事故現場付近の本件マンホールの突出と道路の凹みの状況は、前記認定のとおりである。成立に争いのない甲第一五号証の一から三までによれば、本件事故現場は、本町交差点方向から赤川方向へ(南から北へ)向う幅員16.7メートルの舗装道路と五稜廓公園方向から白鳥橋方向へ(東から西へ)向う幅員18.5メートルの非舗装(砂利)道路との交差点西南角のやや非舗装道路に入つたところで、道路端から約二メートルのところに本件マンホールがあること、車の交通量は普通程度であること、速度規制は時速四〇キロメートルであることが認められる。このような道路で前記のようなマンホールの突出と道路の凹みがある場合には、そこを通行する自動車が右の凹みに落ちこみマンホールに衝突する危険性がないとは決していえず、本件道路の管理には瑕疵があるといわなければならない。したがつて、本件事故は右道路の管理の瑕疵により発生したものということになる。
被告は、本件事故は原告が法規に違反した乱暴な運転をしたからこそ発生したものであり、このような場合にも絶対事故が発生しないように本件道路を管理しなからといつて本件道路に瑕疵があつたということはできないから、本件道路の管理には瑕疵がなかつた旨主張している。
なるほど、後記のとおり本件事故発生について原告に、本件道路に至る直前の交差点を左折した際に徐行しなかつた等の相当大きな過失が認められる。しかし遺憾ながら、自動車の運転者が左折の際に徐行義務に違反することは必らずしも稀有のことではないと認められるのみならず、本件道路を通行する自動車は右交差点を左折してくるものに限られず、右交差点を直進してくるものもあつたことが当然認められるから、原告車と同様の速度で本件道路を通行していた自動車もかなりあつたと認められ、この自動車が本件同様の事故に遭遇することがその可能性が小さいとはいえ当然予想されるのであるから、原告に過失があつたことをもつて過失相殺するのは格別、このことをもつて本件道路の管理に瑕疵がなかつたということはできない。即ち、国家賠償法第二条第一項の道路管理の「瑕疵」とは客観的に事故発生の危険性がある状態を意味すると解するを相当とするから、法規に違反せず通常の運転方法によつて本件道路を通行する自動車であつても本件同様の事故が発生する危険性があつたと認められる以上、本件道路の管理には瑕疵があつたと認めるを相当とする。
(三) してみれば、被告の管理する本件道路には右のような瑕疵があり、この瑕疵により本件事故は発生したのであるから、被告は本件事故により原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。
(新海順次 今井功 伊藤剛)